Experience Prototypistのマルチリンガル子育て+プログラミングブログ

Design Thinking、語学(英語、中国語、韓国語)、日中マルチリンガル育児、littleBitsやRaspberry Pi, Arduinoを使ったExperience Prototypingネタ。

共感の重要性、そして難しさ、最後に楽しさ

お客様の悩みを先に見抜く

誕生日にプレゼントを送る際に、あらかじめ何が欲しいのかを誰か親しい人に聞き出してもらい、誕生日当日、用意しておいたプレゼントをサプライズで贈る。「それって、うまく行くのかも知れないけれど、聞き出している時点で負けじゃない?」

どの工場にもさまざまな悩みがあります。何が必要かを聞くのではなく、その悩みを先に見抜き、何があればよいかを提案する。

安川電機の産業用ロボット、モートマン(MOTOMAN)が世界ブランドになったのには、同社の持つ高い技術力があったのはもちろんでしょうが、そんな利島イズムが社内に浸透していたという背景もあるのでしょう(【九州の礎を築いた群像 安川電機編2】ロボット(中)「ホンダに納入できれば世界一が見える!」 利島イズムで新鋭ロボを続々開発)。

実際には欲しいものを聞き出すなんてできない

私がデザイン思考をビジネスにおいて活用しだしたのは、2007~08頃だったかと思います。テクノロジー製品をお客様に売り歩く中で、お客様に入っていきやすいのが、エンジニア(お客様) to エンジニア(自分) の間で波長が合う、共感ができる場合です。「こんな技術があるんです」「面白そうだね」「こんなことができるんです」「へぇ~、じゃあ、もしかしてこんなこともできるの?」「ほら、こんな感じでできるんですよ」といった会話ができるお客様が相手の場合です。

その一方で、波長が合わないわけではないのに、共感がしづらいケースもあります。「こんな技術があるんです」「面白そうだね」「こんなことができるんです」「いや欲しいのはそういうのじゃない。御社の技術はいいと思うんだ。僕が考えてきたことにはまりそうな気がする。売りたいんでしょう?何ができるのか、ちゃんと買いたくなるような提案をしてよ」。関心は持っていただけている。提案に対してNoを言ってくれても、これが欲しいと言ってくれるわけではない。

実は当の本人もわかっちゃいないから聞き出せない

そんなときに必要なのは、お客様自身を観察し、会話の中から思いの発露したキーワードや表情を捉える力であったり、お客様との間の会話を整理して、提示する力であったり(そうそう、俺が考えていたのはこういうことなんだよ)、お客様のお客様を観察する中での気づく力だったりするのでしょう。お客様自身がいじわるで自分が何が欲しいのかを教えてくれないのではなく、そこを考えること自体がお客様のミッションだという場合もあります。コンサルにいくらいくら払ったけど、結局大したことはなかったな、というのが往々にしてこのケース。

私から言えることは、「まずは試してから考えてみましょう」ということです。提案なりその中のアイデアがいい・悪いと評価するのではなく、プロトタイプを作り、使った上で、(お客様の考えている、ことによると言語化されていない、明確になっていない課題に対して)何が良いのか・悪いのかを洗い出してみるところから始めましょう、ということです。

筋のいいアイデアは課題解決に留まらない、オーバーアチーブ力がある

私には1歳3か月の息子がいるのですが、これくらいの年齢だと真理を語って、正しい行動に促すというのはまだまだ無理です。「かまれると痛いから噛むのを止めなさい」とか「後でおなかが痛くなるから、食事の前には手を洗いなさい」と言っても、前段が後段を促進するというのは100%無理です(言語的な理解力の不足ももちろんありますが)。

南アフリカで「子供たちに手を洗ってもらう」という課題を達成するために、石鹸の中におもちゃを入れておくというHOPE SOAPは、決して子供たちに衛生の重要性を教えているわけではありません。しかし、理解より実践が喫緊の問題です。子供たちはHOPE SOAPのおかげでおもちゃを手に入れようと、進んで手洗いするようになりました。それどころか、頼みもしないのに頭からつま先まで全身をきれいに洗ってくれるようになりました。そのほうがおもちゃがより早く手に入るからです。石鹸を使うことで自分の人生がどう変わるのか、どこかのタイミングで何かの理由で気づくのでしょう。そちらも追いかけてみる価値がありそうです。


HOPE SOAP - WHO Y&R (Cape town) - YouTube

思うに、そもそもの課題設定は「手を洗ってもらうこと」ではなく「病気の撲滅」だったり「予防医学による医療費の抑制」といったあたりが真の、ただし明確になっていない課題だったのでしょう。例えば、同様のアプローチで、交通ルールを守ってもらうために、事故の悲惨さというホラーストーリーに頼らない、別のアプローチが見つかるかもしれませんね。真の課題に迫ることもできそうです。

ちなみにウチの息子は手洗いが大好きです。蛇口のハンドルの上下が出る・出ない、左右が暑い・冷たいに対応しており、自分の欲しい「気持ちよさ」が自分の手で自由にコントロールできるのが手洗い大好きの理由のようです。それでは。